小さな林業者を助ける八女市の施策

60年生以上のスギを伐倒するインターンシップ研修生
60年生を境に補助金が出なくなる不思議

一般的に間伐&作業道に対する補助金は、60年生以下のスギ・ヒノキに対してのみ給付されており、61年生以上には給付されていません。

しかし八女市では2023年から森林環境譲与税を使って、61年生以上のスギ・ヒノキであっても、県や国の補助金が給付されない場合は、八女市が給付してくれるようになりました。

八女市森林環境保全整備促進事業補助金について


この八女市の施策は全国でもかなり珍しいのではないかと思います。

昔ならいざしらず、最盛期に比べて材価が1/4になってしまった現在では、我々のような小さな林業者が施業を続けるためには、多少の間伐&作業道補助金は必要だと言わざるをえません。

ところが60年生以下のスギ・ヒノキのみに間伐&作業道補助金が給付され、61年生以上になると給付されなくなる。このような首をかしげたくなる決まりがほとんどの自治体でまかり通っているのです。

このおかしな決まりは、小さな林業者にとって61年生以上の長伐期施業に対するモチベーションが著しく下がってしまう原因とも言えるでしょう。

なぜ61年生以上のスギ・ヒノキに対して補助金は給付されていないのでしょうか。

戦後の一斉拡大造林政策から抜け出せない行政感覚

こうした補助金の決まりができた理由を考える時、林業の歴史を振り返ってみる必要があると思います。

太平洋戦争中にスギ・ヒノキがかなり伐採されたため、激減してしまった樹齢の高いスギ・ヒノキ材は市場に出回りにくくなりました。そのせいで1970年代頃までスギ・ヒノキ材には希少価値があり、高値がついたので補助金の必要はなかったのです。

そこで当時、建築用木材として経済的価値が高く、需要の多かったスギ・ヒノキに対する拡大造林政策が取られ、至る所にスギ・ヒノキが植えられてからはや50年以上。かつては希少価値のあったスギ・ヒノキ材は、今や珍しくもなんともなくなってしまいました。

林野庁HP「スギ・ヒノキ林に関するデータ」

スギ・ヒノキ人工林齢級(森林の年齢)別面積
齢級(横軸)は、林齢を5年の幅でくくった単位。苗木を植栽した年を1年生として、
1~5年生を「1齢級」と数えます。

上のグラフの通り、日本のスギ・ヒノキの人工林は10〜12齢級(50〜60年生)が一番多いことがわかります。

一方で高度成長期になると、急激に増えた木材需要を満たすために、安価な外国からの輸入材(外材)が出回るようになり、材価はまたたく間に急降下しました。

こうした状況にもかかわらず、行政は昔ながらの高い材価の感覚のままで、61年生以上になったスギ・ヒノキは高値がつくから補助金は必要ないと判断しているのではないでしょうか。

福岡県と国の補助金事業へのリンクを貼っておくのでご参照ください。

福岡県の造林事業補助金について

林野庁 森林環境保全直接支援事業

なんとか施業を持続できている小さな林業者にとって、林班(森林の区画単位)の立木が60年生以下のスギ・ヒノキか、61年生以上なのかは、乏しい林業収入に直結する重要なポイントです。また、立派に育って樹齢を重ねた立木への間伐&作業道施業に対して、後ろ向きになってしまうのは、大変残念としか言いようがありません。

森林環境譲与税の粋な使い道 〜大径木に対する間伐&作業道補助金〜

このような中、八女市では国や県が給付してくれない61年生以上のスギ・ヒノキにも、森林環境譲与税を使って間伐&作業道補助金を給付してくれるようになりました。

おかげで小さな林業者としては樹齢を気にすることなく安心して施業に臨める状況となりました。

言うまでもなく小さな林業者は、スギ・ヒノキが密集した山に小さな作業道をつけて間伐をすることで環境を守る林業をやっているのですから、この施策は小さな林業者を助け、山の環境保全につながる粋な施策だと断言できます。

少なくとも森林環境譲与税を使って、小さな林業者を大切にしようとする八女市の心意気が垣間見えるのは、我々にとって大変ありがたいことです。

私達の環境保全型林業について

願わくば他の自治体でもこうした良い施策が広がることを願っております。

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